E6 易経を読むー4 〔7〕地水師〔8〕水地比 集団は戦う力、和合と派閥の成立について

〔7〕地水師000010 集団は有能なリーダーを得て戦う力となる

子供が成長すると次第にグループをつくるようになりますが、人は群れをつくることで社会的な存在となります。

師は群れ・軍団のことで、軍隊の編成単位を師団というのはこの卦が語源。

集団を動かすためにはリーダーが必要になりますが、そこで師は指導者で、教師や師匠などの名称にもなりました。

柔和な五陰は集団の王様のような存在で、信頼する有能なリーダー(二陽)に軍団の指揮を任せます。どんな組織も部門を動かす有能な部下とトップの信頼関係が不可欠で、良い集団には良いリーダーが育っています。

前回の「天水訟」は争いの原因でしたが、続く「地水師」は集団と戦う力について説きます。

賢人は水を湛えた大地のごとく、衆人を潤す「正しい目的」のために軍団を率いて戦うのです。気に食わない相手や弱者を力で制圧する軍団であってはなりません。

互卦 地雷復000001 注意すべきこと。一陽が育つのを待つ。
一陽来復の語源。目にかけた若い人材が育ち、行き詰まった時の戦力となる。徐々に力が付くのを待てば勢いを増して活躍するだろう。初心を忘れず、焦らずその機運を待つとよい。下の一陽が二陽に上昇変化してリーダーとなる。

錯卦 天火同人111101 因果関係・良き仲間と団結する
同人は、類は友を呼び志を同じくする仲間ができること。同人誌などの名称の語源。良い同志を得て大いに発展するが、縁故に頼らず義理に流れず、妥協しないで広く仲間を求めて真の同志を得る。それが自身の社会的なつながりとなる。

綜卦 水地比010000 天から見れば・助け合い和合して吉
比は二人が並びあう形。そこから他と比べる意味もあるが本来は助け合うこと。信頼し合い上下が親しめばやがて勝利して繁栄(五陽)するだろう。しかし徐々に初心を忘れ他と自分の優劣相違などを比較して不平不満が生まれる。集団が発展すると派閥ができることを比という。

〔8〕水地比010000 助け合い和合するがやがて派閥が生まれる

比は人が並び助け合う意味で、集団で戦い勝利した後、上下が親しみ和合して平和が訪れます。

しかし集団が発展すると志の異なる人も寄ってきます。多数の人が集まれば他と自分の待遇や優劣相違を比較して不平不満が生じるもので、こうして組織の中に派閥が生まれます。子供たちの世界にも似たようなことが起こりますね。

同志が集まり集団が発展しますが、後から仕方なく寄ってくる者はそれなりの扱いをされることも。この卦は「来る者を拒まず去る者追わず」という例えでもあり、集団になると敵対する勢力も生まれます。そこで賢人は上下分け隔てなく親しみますが、例え離反するものがいても、逃げ道を残し追い詰めることはしないのです。

互卦 山地剝100000 過去の教訓・現状の守るものを明確に
危うい状況で無理をすれば揉め事や革命の勢いに押されて破滅する。陰謀や重病などが隠れていることにも例え、教訓は余力のあるうち潔く引いて復活の時を待つ。また災いの種に気付き早く刈り取ることでもある。

錯卦 火天大有101111 因果関係・大いなる繁栄
大有は天に輝く太陽の象形。盛運であり裕福で満ち足りている状況。上下分け隔てなく親しみ、去る者は追わず志を保ち続ければ、隅々まで光がいきわたる。賢人は有害なものは遠ざけて、誠実勤勉に努力を続け繁栄を持続する。

綜卦 地水師000010 天から見れば・良き同志が集えば強い集団となる
戦うために集団が生まれる。同じ志を持つものが集えば、自ずと信頼関係が生まれ、良い指導者も育つ。また良き指導者となる人は同志を集めて力をつけていく。

 

☆解説
共通の意欲や目標は同志となり集団化する力です。群れになると人は社会的な存在になり、そこにはおのずとルールや役割が生まれます。
子供も成長に従い親から離れ学校という社会生活が始まります。文字通り先生がいてクラスにはリーダー的存在が浮上し、互いが信頼関係にあると様々なクラス運営もスムーズに運ぶでしょう。

集団は戦う力であり、勝利してさらに結束し、同志を増やして発展していきます。隆盛をみてしぶしぶ後から寄ってくる人たちさえ、賢人は快く迎え入れますが、不満に思う者もいて徐々に不協和音も生じてきます。

発展することは分化する陽の働きですから、どんな集団も発展すれば必然的に分化していくものです。また集団の中で在籍年数や、実績や好き嫌いなど色々な理由で比較しあい、さまざまな力関係で派閥が生まれます。

もし派閥が不平不満から敵対勢力として台頭すれば、内部は混乱し衰退を加速させるでしょう。

賢人は「来るものは拒まず、去る者を追わず」の姿勢で、離反するものを果敢に排除しますが、とことん追い詰めれば恨みを生みます。そこで四方を塞がず、寛容に逃げ道を残しておくのです。

集団や会社などの組織つくりにも参考になるのではと思います。

E5 易経を読むー3 〔5〕需要と要求 〔6〕矛盾と訴訟

〔5〕水天需010111 待望して得る喜び=需要
需はもとめ待つ意みで、需要です。 小さな子供も成長するとさまざまな要求をするようになります。
下卦の天は全て陽で、豊かな生命力は育ちざかりの児童少年時代に例えます。
食欲旺盛な子供時代は大いに食べさせなさい、制限ばかりすると表面は従っても裏に貪欲な性質が育ちます。反対に上卦の水は危険が前にあるから時を待ち辛抱して待つことの戒めです。
「儒」はその時が来るまでじっと待つこと、時が来たら存分に要求に応えることが人を伸ばしていくために大切です。本当に欲しいものは辛抱して待てば喜びが来ることを「儒」の卦は教えます。
きっとくると思えばその時を楽しみに待てるのですね。
賢人は日が昇る時が来るまで泰然として待つのです。

互卦101011火沢暌〔38〕注意すべきこと
暌はそむくこと。下卦少女(小姑・妹)・上卦中女(兄嫁)で二女同居の卦。女同士が陰湿にいがみ合い反目しあう状況。内部に揉め事が起こることを警告します。そんなときは大きなことをやってはいけない。
矛盾した状況でも小さなことをコツコツやればやがて同じ利害目的で認め合えるようになる。

錯卦101000火地晋〔35〕結果・因果関係
晋はすすむこと進展です。上卦が火、地上に太陽が昇り希望にあふれる卦。柔順な態度で努めると頭上に光指すことを示し、万事順調で働くほどに認められ、苦しんだ人も上昇していく機運。おおらかに自信を持って進める状況がくる。

綜卦111010 天水訟〔6〕喪失や矛盾は争いを生む
天から見れば正しく儒(求め)に応じることは、ゆったりと大らかな心を育てる。心に葛藤や矛盾が生じることは、奪いあう心を育て、争いを生む。そして本当に望むものが遠ざかる。

〔6〕天水訟111010 矛盾と妨害に葛藤し争いを生む 

誠実な心でいても他人に妨害されて理不尽な扱いを受ければやむを得ず争う状態になります。
しかしどんな時も折り合う道を模索すること、また時を待つことも大切。
配分や役割などの不平等も不満が大きくなれば訴訟にも発展します。
最後まで争えばよいことはありません。たとえ勝っても争いで得た勝利は長続きしないでしょう。
公平な仲裁者に委ねるなど、賢明な対処を説きます。
賢人は争いが起こらぬよう事の始めから対処するのです。

互卦110101 風火家人〔37〕心がけるべきこと
家人は家庭の人。とりわけ家族の中心である主婦の働きを示し、上の長女に中女が従っているために円満で丸く収まる、いわば良妻賢母の象形。
各々が自分の役割を知り共に苦労をして、心を通じ合い親しむ温かな家族の情景でもあります。妨害や矛盾を怒り争うことで平安は来ない。
苦しい時こそ家人の支えが大切で、また守る者があれば破滅的な行動を抑えられる。

錯卦000101 地火明夷36 結果・因果関係
夷はやぶれる意味で、火が下に落ちる、賢明なものが傷つき害される卦。
太陽が地の下に没した暗黒を表す。明徳を敢えて愚か者の顔に隠して着々と内面の充実を図ると良い。苦難の中で磨かれた実力はやがて輝く時がくるだろう。

綜卦010111 水天需〔5〕天から見れば
本当に必要なもの、欲しいものは容易に手に入らないものだ。望みを持ち静かに待つ心境で、雨が降り潤す時を信じて待つ。自己中心な欲望や要求は、争いの火種となるだろう。

☆「水天儒」と「天水訟」の卦は、子供が成長していろいろ要求するようになる時の与え方に例えます。 食べ盛りの子供に、常に制限をつけると、隠れて食べる、他人の物を取る、嘘をつくなど内面に姑息な心が芽生えます。
待つことは喜びを得ることと、子供の時期に体感させること…
そのために与えられる時は惜しみなく与えることが大切と説きます。愛情も食事も与える時は存分に、そして苦しい時は家族が支え合いしのぶように、信じ合う心を育てることが根底にあります。
子供のころに待つことで喜びを得る体験や習慣はとても大切です。
逆にむやみやたらに与えすぎることは本当の欲しいものを見えなくもします。

社会は正しく秩序を守っていても、不公平や制約を受けることがあります。
人を妬み羨み他人の物を欲しがることも同様で、それらはみな争いの火種となります。

秩序=歯磨きを厳しく言い、矛盾=かつ虫歯になるから甘いおやつは禁止!となると、子供は他家で甘いおやつをむさぼり、隠れて食べるようにならないでしょうか?
週に一度の休日のように必ず訪れる喜びがあれば、次の休みを楽しみに待ち、この秩序を信じる心が育つのだということもあります。

社会の道理としてもそうですね。

需要は待望しても得たい求めであり、真に求めるものを供給することで、日が昇るような発展があります。あり余る供給は感謝を忘れ、また不平等なら奪い合い争って衰退します。
日が昇る喜びを経験すると今は暗闇でも信じて支え合い辛抱して朝日を待てるでしょう。

需要と供給の在り方を教えられ、矛盾は争いの火種となることもわかります。でも社会は矛盾に満ちているものです。
そのような中でも支えあい信じあえる人(家人・仲間)がいれば辛抱もでき、また共に朝日を見る時が来るのですね。

次回は〔7〕地水師〔8〕水地比…同志が集まり次第に集団化するように、成長した子供は次第にグループを作ります。集団になると優劣や利害を比較して、徐々に派閥が出来上がってきます。人は集団になると派閥をつくるというお話です。