E23易経を読む-21〔41〕山沢損 損して得とる〔42〕風雷益 利益還元

41〕山沢損(さんたくそん)100011  理想のための抑制・損して得取る道

損は文字通り損失、損害など損をすること。それも単純な損ではなく損を承知で、喜んで損をすることです。それは自分の利害損得を考えない無償の奉仕に近い行為であり、意志を貫く自己犠牲の姿にも見えます。

なかなかできる事ではありませんが、この損は世直しや革命のような大きな目的の下に、我欲を捨てて頑張る人々を民衆が支え奉仕する姿勢を示しています。

目的達成は身分や立場の上下に関わらず、同じ志をもつものの成果となり、結果的に民衆の利益になる損失です。そのような行いを山沢損が説きます。

身近では、家庭という運命共同体の中で主人を支える妻の役割でしょう。

若い夫(山)は志が高く、夢の実現に向かって頑張っていますが、収入はまだ少なく出費は嵩み苦しい生活です。そこで若い妻(沢)は自分の貯金や衣類や宝石を夫のために放出し、自分も働いて生活を支えます。そこには目先の利害損得の気持ちはなく、愛して信じる夫の夢を成功させたいという一念しかありません。

…夫の理想を叶えるために妻が進んで苦労して支える…昔からこのような話は私たちの身近にいくらでもありました。その根底には信頼と愛情と夫の成功が希望だったのでしょう。

この無償の奉仕や献身を国レベルで考えると、革命的な状況といえます。

戦後の日本でも大半の国民は貧しく困窮していたと思います。でも新しい時代を夢見て皆が我慢し助け合い、上も私財を放出し私欲を捨てて取り組んだ一時期もあったと思います。そのような上下、官民一体となって作り上げたのが自由で民主的な平等の社会でした。そして経済発展は目覚ましく、辛抱我慢をした国民にも等しく恩恵がもたらされた時期がありました。

このような同じ志に向かう民衆の損失は、やがて利益として還元されると次の風雷益(ふうらいえき)が示します。これが「損して得を取る」ということです。

賢人は損も益も「高い理想」のために、「低い欲望や目先の欲」を抑えた結果であるとして、人々の損失、我慢や奉仕はその目的と時期に共感してこそ生かされ、共に努力してこそ悦びと平和へ民衆を導けるのだと考えます。このような一体感の結果、人々の損失に対し利益を還元する喜びを見出すのです。

我慢や奉仕も喜びと平和が訪れるならきっと多くの人が頑張れるでしょう。

望まない世の中のための我慢や奉仕や制約は苦しみでしかありませんから。

 

42〕風雷益(ふうらいえき)110001自由と平等・利益の還元

益は損の逆で、利益を得ること。それも上が損をして下が益を得るので山沢損の逆です。民は恩恵を受けて喜び感謝し、君子の道も輝くとあります。

上が下を潤すことは損と同様に我が身に返り、損と益は繁栄をもたらす上で不可分の関係です。若い時の妻の苦労はやがて報われ、熟年となった夫(雷)が今度は妻(風)を支え守る象形が風雷益です。

誠意を尽くして努力した結果が周囲の人に利益を還元するのであれば、上下が共に喜び益々繁栄をもたらします。
そこには公明正大で私利私欲のない立派な社会が築かれるでしょう。

風雷益は自由で民主的な平等の社会を表す卦です。
損が益となるのは社会的な利益となるときに大吉となると説いています。

しかし成功すると若い女性に目移りして糟糠の妻を捨てる。また改革の後に私利私欲におぼれて民衆を置き去りにするようでは、損益バランスは崩れ大凶に転じます。

損も益も同じ志や目的を求めて、その時に応じて行われることが大切で、民衆の望まないことは、いくら上が望んでも喜びの繁栄はもたらさないなのです。

悪くすれば民衆により排除されてしまうかもしれません。

そこで賢人は常に民心に心を傾け、民衆に利益を還元する力を生むために、私利私欲に打ち勝つ修養を積むのです。

〔解説〕

山沢損と風雷益は〔31〕沢山咸=恋愛〔32〕雷風恒=結婚の二卦と深く関係しています。

〔31〕沢山咸=感応しあう心が信頼と愛情を生み、若い二人は結婚して、妻は夫を助け奉仕する=〔41〕山沢損であり、成功して熟年となった妻に利益を還元して守り支える夫=〔42〕風雷益となり、末永く変わらない夫婦となり豊かな老後を送る〔32〕=雷風恒です。

家庭も企業も国レベルまで、この関係に例えられます。

下を妻や社員や国民とすると、上が夫や経営者や元首になり、このような上下関係の間に、上の願いや思いに共感し、同じ未来や目的に向かう時には下は喜んで損をし、我慢し、奉仕し、支えます。上も私利私欲をもたず、下に利益を還元する喜びを糧に励みます。こうであれば自由で民主的な成功を導き、家庭も企業も国も立派になり益々繁栄するでしょう…ということになりますが、現状を見るとなかなか容易ではないように思えます。

易の言葉である損と益は、今では企業の損益、損益計算書などという言葉に当たり前に使われています。健全な損益とはなにかと考えるヒントになるのではと思います。

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