E11易経を読むー9正しく随い、災いを福に転じる道〔17〕沢雷髄〔18〕山風蠱

〔17〕沢雷髄(たくらいずい)011001順応し正しく随う道

繁栄をつかんだ後に謙虚さと余裕をもち、あらかじめ警戒して準備することが大事と、この前の卦(15地山謙16雷地豫)が示していました。もし謙虚さを失くし警戒心を忘れたとき、人はどのようになるのか…

「沢雷髄」は上の沢が若い女性、下の雷は中年男性です。若い女性に中年男性が随っている形で、アンバランスで間違った方向に人が動いていることを示しています。

欲望を燃やして間違った方向に人が集まっていくとどうなるか…間違いなく世の中が乱れて衰運がはたらきだすでしょう。

この卦は秋の果実が実る頃の季節感ですが、秋は植物の成長が止まり根の枯渇が進みます。根幹から送られる養分で枝の実が熟成しますので、実の方は根幹の働きに任せて熟成を待つしかない状況です。

そこで互卦の「風山漸(ふうざんぜん)110100が徐々に順序を踏んで実力を養い進んでいけば、必ず着実に進展していくのだと注意を促します。

繁栄を築くために苦労を共にしてきた人を排除し、甘言に乗って間違った方向へ人が動けば衰退が進むのは当然です。それを責任ある中年男性が若い女性に夢中になって随っていると例えているのですね。

そこで陰陽逆転して因果関係を示す錯卦が「山風蠱(さんぷうこ)100110です。この卦は皿に虫が三匹乗っている象形で、食物に虫が湧くように腐敗が始まっている状態を表します。綜卦の天から見ても同じ「山風蠱」が見えます。

 

秋の果実が熟成を待つような時に、逆行を望んでも夏の繁栄に戻ることはありません。

築いてきた土台・根幹を守ることを忘れずに、環境に順応していけば、やがて熟した実を収穫することができるのです。

しかし今も昔も往々にして、成功すると慢心して衰退を早める人が多い、ということなのでしょう。でも早く気づいて対処すればまだ何とかなると次の「山風蠱」が教えます。

 

〔18〕山風蠱(さんふうこ)100110問題を処理して災いを除く

蠱は皿の上に虫が三匹のっている文字です。ウジ虫がわいてきているような状況ですね。

山風蠱の卦は山のふもとに風が吹き荒れて災害を起こす象形です。また山は若い男性で風は熟女を表しますので、今度は反対に熟女が若い男性を「蠱惑」する様子です。

この例えは、繁栄に慢心し謙虚さも警戒心も無くして進む道を誤れば、腐敗が進み世の中が乱れてくることを暗示します。

現実に、度々災害に襲われ、様々な問題が発生して多事多難に陥る時が来るもので、平和な繁栄の時代は長くは続きません。台風が襲い農作物に多大な被害を与えることは珍しい事ではなく、害虫が発生して収穫を台無しにすることもあるでしょう。

このような時に最も困窮するのは民、庶民です。そこで腐敗した状況を正して根に巣食う虫を退治するように、根本から解決することを望む民の力が改革の火種となることは歴史が示しています。

互卦の「雷沢帰妹(らいたくきまい)001011は、アンバランスな矛盾した状況は常に不吉な未来を予感させるものだと警告します。当事者は早く気づいて志を取り戻し、精神性を高めて永続するために努力すれば、「災い転じて福となす」こともできるのだと教えます。

因果関係を示す錯卦も天から見た綜卦も「沢雷随」で、順を踏まず道を誤れば腐敗が始まると警告しています。

「山風蠱」は災害や様々な問題を放置すれば、腐敗が進むことを教え、男女のアンバランスな関係に例えて、道を誤ったことに早く気づいて修正し、精神性を高めて適切に対処すれば、まだ何とかなる時期なのだと説いています。世の中が乱れて腐敗が進み、さらに様々な災難や問題が発生すれば、その被害は必ず庶民に及びます。そして根本からの変革を望み、改革へと時が動いていきますが、そうならないよう賢人は適切に対処し善処するので、なんとかなる時期なのです。

真摯に根本から解決するよう対処すれば、災いを教訓にして福(熟成の時代)に転じることができることを説く卦です。

今は戦後に始まった春から夏の時代が終わり、繁栄のピークを過ぎて様々な災害や諸問題が発生しています。沢雷髄・山風蠱の示す季節感とよく似ています。

人としても人生が華やかな時にこそ謙虚さを忘れずに、あらかじめ警戒して備え、誤った道に進まないよう、適切に対処していけば、熟成した人生が訪れる…そのために繁栄を築いてきた土台・根幹を守ることが大事なのですね。

 

 

E10 易経を読むー8 繁栄を持続するために〔15〕地山謙〔16〕雷地豫

〔15〕地山謙(ちざんけん)000100 繁栄を持続する道・謙虚公平であれ

繁栄を示す火天大有の後に続くのが地山謙。文字通り謙虚・謙譲・謙遜を説き、成功した後こそ私欲や慢心を抑えて、周囲にお返しをする気持ち、奉仕の精神が大切と説きます。

誰でも築いた繁栄を長く持続したいと願いますが、行動は奉仕とは程遠い私利私欲に走り、自分の財産や名誉や権力を増やし守ることに汲々とすることが多いのです。名誉や地位、才能や美貌などは謙虚さがあってこそ光るものです。
実るほど頭を垂れる稲穂のように謙虚であれば、信頼され敬愛されて繁栄が長く保たれるでしょう。

賢人は終わりを知り、満つれば欠ける道理を知って、繁栄の後こそ下に厚く、弱者を守り、謙虚で公平に振る舞うのです。

互卦 雷水解(らいすいかい)001010 注意点・時のめぐりを知る
解は解ける、解消、解決のこと。自然界では春が訪れ雪が解けて生命の活動が一斉に始まる。繁栄に終わりあり、暗闇も冬の寒さもまた時が巡り、夜明けや春が来る。謙虚に努力しても繁栄に陰りが訪れ、苦難の時もあるが、周囲の信頼と敬愛を失わず機を持てば解消する時が来る。

錯卦 天沢履(てんたくり)111011  因果関係・実行して切り開く時が来る
果敢に行動し実行しなくては道は開けない。社会は厳しいが、先人への礼を尽くし秩序を守り、謙虚に行動すれば、たとえ失敗しても許され、逆に守られる。

綜卦 雷地豫(らいちよ)001000 天の教え・予見して警戒し備えて余裕をもつ
繁栄の時もいつか終わり、また動けない辛抱苦労の時もくるが、やがて解消し元気に活躍する時が来る。
良い時にはあらかじめ警戒し備えを整え、悪い時も焦らず慌てない余裕が大切。
悠悠自適は常に警戒と備えにより保たれる。

 

〔16〕雷地豫(らいちよ)001000 悠悠自適への備え

豫は予見、予裕、予断を意味します。また「あらかじめ」でもあり、予裕の中で遊び楽しむのは良いとして、慢心し油断すれば思わぬ失敗をするから、あらかじめ警戒を怠るなと説きます。

困難な状況では我慢辛抱はできても、時期がきて行動しなければ好機を逃します。余裕とは、常に警戒を怠らず備えた中にあり、備えあれば憂いなしです。
繁栄の時代にも季節のような波があり、常に下を労わり、謙虚で公平であれば人の心が離れず、共に苦しい時を乗り越える力となります。また新たな発展の時を予見し、好機が訪れた時は溜めた力を大いに発散することでまた発展できるのです。

運勢の波の動きに翻弄されず余裕を持ちすごすために、常に警戒と備えを怠らないことが大切と説きます。賢人は常に警戒し備えを怠らず、変化を予見して行動を起こすことができるので、悠悠自適に人生を楽しめるのです。

互卦 水山蹇(すいざんけん)010100 注意点・焦らず急がず無理をしない
蹇は足が止まること。バランスが崩れ行き悩む状況が訪れる。前途を塞がれるが、無理に動かず、見識ある人の意見を聞き、遠回りでも平易な道をゆっくりと進むことが大切。
動けない時は静かに我が身を振り返り、内面を整え修養して時期を待つことだ。

 錯卦 風天小畜(ふうてんしょうちく)110111 因果関係・まだ大事を行うには力不足
畜は蓄え留めること。小畜は蓄えが小さく大きな力を留めることはできない状況。
春がきて伸びる芽はまだ若く力がない。力の弱い者が強い者に勢いや意欲だけで立ち向かっても勝てない。
成長力のある時こそ、学び励んで内面を強く鍛え、力量を蓄積することが大切。

綜卦 地山謙(ちざんけん)000100 天の教え・謙虚で公平であれ
繁栄も衰退も繰り返すのが天のことわり。成功をつかみ繁栄の時にこそ、弱い者を労わり謙虚で公平であることが大切だ。
繁栄を長く持続するのは困難だが、謙虚さを保てば、山あり谷ありの時を乗り越えて長く支持され、また良い時を迎えることができる。

 〔解説〕
地山謙と雷地豫の二卦は、成功した後こそ人の内面の美徳を発揮することが大切と説いています。賢人は繁栄と衰退は繰り返すことを知っているのです。

世の中には成功をつかむと別人のように偉そうに振る舞う人がいて、私利私欲に走り益々力を拡大するために、冷酷にさえなる人がいます。

歴史の物語は、民衆の支持を得て戦い、変革を起こした後に権力を握ると、その力が千年万年も子孫に継続することを望む繰り返しです。

繁栄と衰退は繰り返し、いつか訪れる終わりを知る人は、驕らず高ぶらず謙虚に公平に励みます。そして衰退と苦境の時を乗り越えて、また発展の時を迎えられるでしょう。穏やかに時には激しく変わる時代の波の中で、民を慈しむ賢人が治めた良い時代もあります。でも時が巡り人が変わり滅亡の時は必ず訪れ時代は変化していきます。

そんな歴史物語の中の民衆は、誰が権力をもとうがそう期待もせず常に警戒し、日々の小さな楽しみに憩い、今日の糧のために励み、肩を寄せ合って苦難をしのぎ生きてきた、強い心の人たちだったのではと思えるのです。

本当の悠悠自適の生活は、権力をもつ人にはないのかもしれません…

E9易経を読むー7 よき友や同志の絆は成功や繁栄を導く〔13天火同人〕〔14火天大有〕

〔13〕天火同人(てんかどうじん)111101 社会的なつながり・良い友をつくる

同人は同じ志を持つ人=同志で、同人誌などの語源で、慶応義塾と並び称せられた小石川の同人社の名称にも使われています。

外に旺盛な発展の勢いがあり、内面に知性や明徳を秘めて、豊かな社会性、発展性を示します。人の性質に当てはめれば、知性と実行力を備えた人物といえます。類は友を呼ぶといい、利害なく広く交流して良い友を求め、自分の人脈をつくりまた志を共有すれば、社会的な勢力となり、ひとたび志を実行する時には強いきずなを発揮します。

反対に、狭い範囲で縁故知人のつてを頼ることや、頼まれて断れず…といった状況では、目的を共有する意識は希薄になり、しがらみに縛られ決断力が鈍ることにもなります。

賢人は志を成就するために、始めは辛く孤独でも安易な道を選ばず、人を見分け良き友良き同志を求めるのです。

互卦:天風姤(てんぷうこう)111110 注意すること…慢心の戒め。正しく交流する
発展し成功した後に遭遇する思いがけない災いに注意を促し、成功しても慢心せず土台を固めよと戒めます。

成功すると色々な人が寄ってきますが、良い気になってやり手の美女とねんごろにでもなると、徐々に籠絡されて土台が崩れていくぞという警告です。

本来天風姤は奥深い卦で、交際のマナーや正しい交流のあり方を説いています。簡潔に言えば非常識な人の接近は要注意だという戒めです。(詳しくは44天風姤で)

錯卦:地水師(ちすいし)000010 因果関係…良い集団は勝利へ導く力
人は群れることで社会的な力をもちますが、良い集団となるには良いリーダーが不可欠です。人徳のある人の下には人が集まり、聡明で実行力のある人がリーダーとして育ち、強い戦力となりますが、良い同志に恵まれ社会的に力のある集団となるのも同様で因果関係にあるものです。

綜卦:火天大有(かてんだいゆう)101111 天からみれば…大いなる繁栄をもたらす

天に輝く太陽は、強い光で隅々を照らします。光り輝く強い盛運であり、順調な未来を表しています。志を高く良い友、同志を得て、社会的な力をつけていけば大いなる繁栄が訪れるでしょう。

 

〔14〕火天大有(かてんだいゆう)101111 発展の輝きと盛運を示す

大有は大いに有つ(たもつ)ことで、天上に太陽が光り輝く真昼の明るさです。

その光は隅々を照らし、その輝きに包まれて大いなる盛運が訪れます。
また豊かな実りに恵まれる状況であり、円満裕福でものごとが順調であることを示します。強運が味方する今こそ、積極果敢に行動し実行して大いに発展していくことを促します。

賢人はこのような繁栄の時こそ慢心せず、善悪を見極め有害なものを遠ざけて、長く盛運を保つよう努力するのです。

 

互卦:沢天夬(たくてんかい)011111 注意点すること…私欲を戒め悪い物を見極め省く
夬は決断や決行で、未来の発展のため果敢に決断し、決行することを促します。

ただし行う時は私利私欲を戒め、溢れる水を田畑に回すように、下に厚く恩恵が施されるよう計らことが大切です。善悪を見極め、無用無駄を除き、調和と公平を目安に行動すれば自ずと繁栄が訪れるのです。

錯卦:水地比(すいちひ)010000 因果関係…助け合い信頼し合い平和が保てる
水地比は有能で聡明な指導者の下に多くの人が安住し、同様に火天大有の繁栄は未来の安定をもたらします。

しかしこのような恵まれた状況でもやがて優劣や順位などを比較して不満が芽生えるのが人の社会でもあり、公平に親しんでもいつかそのような時がくるものです。長く平和を保つためにも強い信頼関係が大切なのです。

綜卦:天火同人(てんかどうじん)111101 天から見れば…同志のきずなが繁栄をもたらす
私縁に頼らず、高い志と聡明な実行力で結ばれた友の絆は、やがて同志となり、集団となって社会的な力を発揮するでしょう。よき友、よき同志が集い事を行えば、大いなる繁栄に導かれるのです。

〔解説〕

天火同人は繁栄を導くために同志の結びつきが大切であると説き、火天大有はそうしてもたらせられた盛運を長く保つために、公平であることはもちろん、善悪を見極め、有害なものは果敢に排除してこそ、安定が保たれるのだと説きます。

高い理想や志を一人で成し得ることは困難です。そこで良い仲間を求めるのですが、その時に身近の義理や縁故に頼ることや、頼まれて仕方なくという状況では、同じ目的のために向かう強い気持ちが生まれず、さらに苦しい時に団結することが困難になる可能性も高まります。

賢人は安易な道を選ばず、孤独に耐えても志を高め合える友を求めます。やがて志を共有する同志へと発展していけば、共に喜び、苦しい時も乗り越える強いきずなが生まれるでしょう。

成功や繁栄も衰退する時がきますが、安定を長く保ち、また困難を超える力や、改善する力の根幹となるのは、やはり人の力なのだと教えられます。良い友、良い同志をもつことは心強くそれだけでも豊かで幸せなことです。そのためにはまず自分が志を持つということが大事なんですね…

E8易経を読むー6 和合・発展と安泰〔11〕地天泰  離反・閉塞と打開〔12〕天地否

11〕地天泰(ちてんたい)000111上下和合して発展し安泰となる
天が下にあり地が上にある天地逆転の象形ですが、天の陽気は上昇し、地の陰気は下降する性質があります。
天と地、陽と陰が結びつくことは、万物生命が生まれるための大原則です。そこで地天泰は上下和合して発展する「安泰の道」を説く卦です。

上が下を慈しみ下は伸び伸びと発展を目指して活動する象形で、理想の社会ですが、陰陽逆転すれば次の天地否となり、上が私腹を肥やして民が苦しむ世の中ともなります。
表裏一体、天地逆転も真なりです。上下和合の安泰と上下離反する天地否は、立場や状況により見方も変わります。

人物でいえば、内面に溢れるほどの意欲をもってよく働き、外面は謙虚で柔順であるために、人に好かれ上にも可愛がられるので、一生食べるには困らないでしょう…とあります。半面年齢が増すと次第に従順でおとなしい性質が目立ち、良い人には違いないのですが、良い人で終ってしまう可能性もあります。

賢人は上下が和合して事が成就するため、時と目的に応じて創意工夫し利便を追求して下を助け働くのです。

互卦:雷沢帰妹(らいたくきまい)001011上下離反も初心を全うすれば吉となる
女性を柔順の陰とすれば、この卦は若い女性が力のある中年男性に逆にアピールする象形で、私利私欲や功利的な結びつきを示します。そこで凶・否運であるとしますが、道ならぬ恋もやがて皆が認めるようになり、全うすれば吉となるのです。
安泰の卦の中に注意を促す互卦なので、例え優遇されても努力を怠らず、慢心すれば否運になるぞと戒めているのでしょう。

錯卦:天地否(てんちひ)111000 因果関係・上下離反と打開の道
天の陽気は上に、地の陰気は下にいくことから、上下が容易に結び付けない困難な状況です。上は私腹を肥やして民を顧みず、民は不平不満を溜めてやがて徒党を組む団交の始まりです。上の立場からは困った状況で、徒党を組めば低きに流れて否運に陥るぞと警告します。
しかし現代は若い女性が力のある中年男性を射止めるのも当たり前で、まさに逆転の天地否時代です。でも終わりを全うすれば吉となるのも同じです。
打開の道は、初心を貫き努力を続け全うすることです。やがて結実するように、実力を認められ安泰の時を迎えます。

綜卦:天地否(てんちひ)111000 安泰の構図も時とともに逆転する
始めが順調なら…始めが苦労なら…という違いでは人の未来はわからないもので、安泰でも否運に陥り、否運でも安泰へ向かう道があり、天から見れば時の巡りなのです。

12〕天地否(てんちひ)111000 結実の道は容易ではない。初心を全うして吉
天地否は111000、地天泰は000111で上卦と下卦が逆転した象形です。 地天泰が内面に陽気を秘めて謙虚で柔順な人ならば、天地否は若い時に苦労の連続でも実力を磨きやがて頭角を現す人々でもあり、実力もないのに虚勢で飾り、したたかに翻弄する人々ともなります。前者はやがて安泰になり、後者はいずれ否運となればよいのですが…

社会は支配層が私腹を肥やして、民が困窮する象形で、自然界は花が枯れて根幹の枯渇が進む中でようやく結実していく状況です。このような上下の結び付きが容易ではないことを否運とし、困難でも持続し全うすることで打開するのだと説きます。
困窮した民は一揆(ストライキやデモ)に走りますが、支配層から見れば民が徒党を組むことは大変困るので、この卦を凶としたのも頷けます。
実のところは安泰も否運も表裏一体で見方を変えれば、同じ目安なのです。

賢人は人々の苦しみを見て、行いを慎ましくして難を避け、金品(高禄)に惑わないように努めるのです。

互卦:風山漸(ふうざんぜん)110100 順を踏み着実に進化する道。実力養成。
地天泰の互卦、雷沢帰妹が順を踏まずに上位を望む卦なら、天地否の互卦の風山漸は順を踏み、着実に力をつけて進化伸展することを示します。
例え否運に苦しんでも、初心の志を忘れず着実に力を養えば必ず成功に導かれると説きます。

雁のひなは、親鳥に随い徐々に飛ぶ力を覚え、練習を積み重ねてやがて親や仲間と共に千里を渡ってゆきます。また遠い山の木の生長は日々目には見えませんが、いつの間にか枝葉を伸ばし太くたくましく育っていることにも例えます。

逆境や苦境を嘆いて努力しなければ否運となり、黙々と努力して実力を養えば道は開け安泰となることを示します。

錯卦:地天泰(ちてんたい)000111因果関係・和合と安泰の道
否運を嘆かず、努力を続ければやがて安泰の時が来る。

綜卦:地天泰(ちてんたい)000111天から見れば時の巡り
春の草木の成長の結果が秋の結実をもたらす。時のめぐりを信じてその使命を全うすればやがて発展の時が訪れる。

〔解説〕

互卦は卦の中身であり、注意すべきことを説きますが、安泰の卦、「地天泰」の互卦「雷沢帰妹」は、恵まれていても努力なくして実りを追えば否運となることを示し、否運を示す「天地否」の互卦「風山漸」は、苦しくとも初心を持続して実力を養えば安泰となることを示します。

地天泰は温かな春にすくすく伸びていく若い幹であり、天地否は秋の結実に向かう老成した幹です。春は気候や環境に恵まれて栄養も十分ですが、花が枯れて実がなる秋は、相当根も疲れて栄養も十分ではありません。でも実がならなければ、次世代の種子を残せませんので、草木は頑張っているのですね。

そのような見方から、安泰も否運も時の巡りであり、時に応じて注意すべきこと、努力するポイントを説くものです。
季節のように時代は巡り、順調な時も苦しい時も必ず終わりが来ます。
安泰も否運も表裏一体、因果関係にあり、その時に応じ、その立場に応じて、慢心せず、あきらめず、初心や志を全うすることの大切さを説いているのでしょう。
現代はまさに困窮する民が増加して貧富の差が増す天地否時代の様相です。
民の苦労は続きそうですが、上の立場の方々が民と苦労を共にする賢人であってほしいと願うばかりです。

E7易経を読むー5 目標を実現するために 〔9〕風天小畜 〔10〕天沢履 

〔9〕風天小畜(ふうてんしょうちく)110111 柔、剛を制す。実力養成

畜は蓄え養う力で、小畜は蓄積が少なく留める力が弱いこと。溢れる発展の意欲(陽気)がありますが、経験や実力に欠ける少年時代に例えます。力もなく勢いだけで虎の檻(危険)に飛び込めば食われてしまうでしょう。

そこで柔軟で吸収力の高い少年時代こそ、内面の徳(陰の力)を養うことが大切と説きます。力が弱い者が強い者を留めるには力の勝負ではなく、陰徳で向かうしかない。その陰徳とは、まず学問を治め社会の秩序や先人を敬う礼などの知識を養うことで、短気に走ると失敗するという教えです。でも実行しなくては道は開かず、そのジレンマに苦悩する状況を切り開くときの手引きとなる卦です。賢人はその状況をみてその文徳(秩序や礼儀や学問知識など)を磨くのです。

互卦:火沢暌(かたく・けい)101011 注意点・内実が整っていない
暌はそむくこと。一軒の家で女同士がいがみ合う様で、内部や内面にいざこざが生じていること。そんな矛盾した状況では大事に挑めません。日々コツコツと積み重ねる中で、矛盾は解決していく。反目する二女性も外敵に対しては家を守る共通意識で立ち向かうので、徐々に調和して収まっていくという例え。

錯卦:雷地豫(らいち・よ)001000 結果・やがて発展の機が来る
豫は与える、楽しむで、半面怠る、あらかじめという意味もある。
ようやく動ける時が来る(春の発芽)。蓄積したエネルギーを大いに発散して伸びていくとよい。心に余裕も生まれ楽しみも多いが、油断すると思わぬ失敗も招く。あらかじめ予期して警戒を怠らないことだ。

綜卦:天沢履(てんたく・り)111011 虎の尾を踏むが…
果敢に虎の檻に飛び込むが、うっかり尾を踏んでしまう。しかし食われることはないだろう。なぜなら虎を敬い礼を尽くしていることを虎は知っている。志は遂げられるだろう。

 

10〕天沢履(てんたくり)111011 虎の尾を踏むも食われず。実現の道

履は履行する、履く、踏むなどの意味があり、履行することから、志を実行し、実践する状況を説く「実行の法則」です。「虎の尾を踏むも食われず」とあり、虎はさまざまな危険の象徴です。志を遂げるには、危険を恐れては実現できません。うっかり虎の尾を踏むような危険の中で、どう行動すれば食われずにすむのか…。

履は力のある天に沢が柔順に従う象形です。目上や経験者などの先人を敬い、素直に教えに従い、失敗から教訓を得る姿勢があれば、食われるどころか逆に守られるでしょう。賢人は上下の立場を守り、礼儀正しく、秩序を守るのです。(君子は上下の位を明確にし礼儀を定め、秩序を正しくして治める)

 互卦:風火家人(ふうか・かじん)110101 家族に守られるような安心
家人は家庭の人家族のことで、特に主婦の働きを示す、良妻賢母の象形。
どんな困難な状況でも夫を支え、家族共に苦労を分け合い支えてゆく姿です。
心が通じ合う温かな家族のように、円満で丸く収まるだろう。

錯卦:地山謙(ちざん・けん)000100 繁栄の後も謙虚で公平であれ
謙は謙虚、謙遜を表します。公平で功をひけらかさず、私欲や慢心もない。賢人は満つれば欠ける月を見て悟る。
そのような人なら、一層才能も光り存在も輝くだろう。豊かな時に他に奉仕できる人こそ余裕の人で、繁栄しても謙虚で公平な人は、その才能は輝きを増し、存在も光り、自ずと人も従うだろうと。

綜卦:風天小畜(ふうてん・しょうちく)110111 実力を養い実現する道を開く
実力もなく志を遂げるのは困難だ。危険を覚悟して進むためには、社会の秩序や礼儀を知り、様々な学問知識を養うことだ。実現のために短気を起こさず内面を磨き実力を養うことが大切だ。

解説
「風天小畜」は何かを実行する時の心構えを説き、その実現のために必要な力を養成することを説きます。「天沢履」は実力を養成し秩序を守って望めば、人の縁に守られて実現することができるという、「実行の法則」です。

特に若い時ほど力不足のまま大きな力に立ち向かおうとしますが、それは虎の檻に素手で飛び込むようなもの。しかし勇猛な虎は、礼と秩序を踏まえ、必要な知識を持って近づけば、逆に守ってくれる存在にもなります。
万一尾を踏んでしまっても、そのような失敗を教訓にして励めば許されるでしょう。という厳しい現実社会を虎に例えた話です。

夢や目標を本気で実現したいなら、まず必要な知識を修め、先輩目上への礼儀や、社会の秩序を守ることが大切で、その努力は厳しい現実を果敢に切り開いてゆくときの守りとなるでしょう。

夢や目標を描くのは簡単ですが、実現の道はとても厳しく、気持ちで頑張るだけでは難しいでしょう。

目標は自分との約束です。それを果敢に履行するため、必要な力を養う時間を惜しまず、社会の秩序や礼儀を学ぶことも、同時に大切です。そうしてこそ人の縁に恵まれ、人に必要とされ、いざという時の守りとなるでしょう。さらに実現の後も謙虚さを忘れないことで一層輝きを増して終わりを全うできるのです…というお話です。